山と酒と音と飯

登った山と飲んだお酒と聴いた音楽と食べたメシについての備忘録

双六岳でツェルト泊したら想像以上に修羅場だった話

今年もまた

「年に最低でも1度は高い山に登りたい症候群」

を発症し、居ても立っても居られなくなりました。

これを発症してしまうと、2,500m以上の高山帯に行ってテント張ってビール飲みたくなって仕方なくなると言う、実に困った症状なのです。困った困った。

 

そこで8/10(金),8/11(土)の一泊二日で、双六岳(標高2,860m)に登って来た次第です。

 

双六岳ってどこよ?どんな山よ?富士山より高いの?低いの?

と言うご意見が方々から飛んで来そうなので、ざっくりと案内をさせて頂きます。

岐阜県と長野県の県境に位置し、岐阜県側の新穂高温泉から入るのが一般的なルートです。

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槍ヶ岳穂高連峰よりも関東側から見て奥地にあり、松本駅から登山道入口のある新穂高温泉まで車で1.5時間ほどかかるので、絶妙に一般的な人気と知名度の無い山なのです。

 

地図上の直線距離で見ると松本市内から新穂高温泉まで、まあまあ近そうな雰囲気を醸し出しているのですが、間には蝶ヶ岳穂高連峰と言った日本有数の高山帯がある為、迂回しながら行かなければならず、上高地等と比べてアクセスが良く無いのも知名度が低い要因になっていると思われます。

 

とは言えこの双六岳、その後ろに控えている日本百名山鷲羽岳水晶岳を登るためには、通過しなければならない山である事と、晴れた日には奥穂高岳槍ヶ岳を一望できる見晴らしの良さから、山好きの間では結構な人気を誇っています⛰⛰

 

そんな山に今回、一泊二日の行程で行って参りました。

 

8/9(木)の午後7時に松本駅に着弾🚀

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今夜は同行者に車で拾ってもらい、新穂高温泉駐車場に車を止め、車中で4時間ほど仮眠を取りました。

 

新穂高温泉〜双六小屋

04:00起床。

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気温23℃。新穂高温泉で既に標高が1,060mぐらいなので大分涼しい感じがします。
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サブバッグを含めた荷物の総重量は17.03kg。

 

テント泊とは言え一泊二日ならば、削ろうと思えばテント込みで10kg台前半まで削る事も可能ですが、私の登山はメシにかなりメーターを振っているので、だいたい重くなります。

この辺り、自分の登山スタイルを何処に軸足を置くかで決めて行って頂くのが良いと思います。

FAST & LIGHTを目指すのであれば調理器具もほぼ全部削ってカロリーメイトだけで乗り切る方法もあります。

 

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夜明けと共に午前5時頃に出発。

暫くは整備された平坦な道を歩きます。

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途中に湧き水ポイントがあった為、水を1ℓ補充。

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わさび平小屋を越えて小池新道の入口までは穏やかな林道を歩いて行きます。

生ビールの看板の誘惑に負けぬように心を鬼にして歩を進めましょう。

 

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此処からおよそ4時間半〜5時間はガレ場を含めたコブシ大〜の岩が転がっているエリアを延々と登って行きます。

 

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秩父沢を越え、尾根伝いに登り始める所から弓折乗越までが本日の登りの核心部。

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等高線が詰まって、これまでよりも傾斜が急になります。

 

17kgを背負って持続的に斜度20〜30°を登り続けると言うのは地味に持久力を求められるので、慣れない方は山小屋泊から始めた方が良いです。

 

私の場合はだいたい1時間歩いて5分休憩ぐらいを目安に歩きます。

その他、息切れしそうになった場合は都度呼吸を1〜2分立ったまま整えます。

 

途中、標高2,300m地点の鏡平山荘で休憩を挟みます。

この鏡平山荘周辺はこの高所でありながら池が点在していて、鏡のように風景を写し込んでいます。f:id:u_f_y:20180812155600j:image


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(鏡平山荘遠景)

 

鏡平山荘まで来たら稜線まではあと一息。

 

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鏡平山荘辺りを境に植生も変わって来ます。

笹中心だった通路脇の植物に、高山帯ならではのハイマツが混ざって来ました。

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ハイマツの松ぼっくりでもジャムを作れるのかなぁ?などと考えながら歩を進めます。

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これはミヤマトリカブト?ですかね。植物に詳しくないのが悔やまれます。

 

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イナゴー(°∀°)ー!

こんな高地でも生きていけるのかい君は! 

 

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弓折乗越まで出たら、本日の目的地である双六小屋まで緩やかな傾斜の稜線上を歩いて行きます。

 

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標高2,500m近辺。雪渓の残っている地形に遭遇。

 

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双六小屋が見えました。奥には日本百名山の一つ、鷲羽岳が顔を覗かせます。

 

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程なくして本日の目的地、双六小屋(標高2,600m)に到着。

05:00に新穂高温泉を出て13:40着なので、途中の大休止1時間を抜いて7時間40分、高低差およそ1,820mの行程でした。まずまずの疲労感。

 

受付で幕営料1人¥1,000を払い、テントを立てます。

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テント村全景。平日とは言えハイシーズン。結構な量のテントが立っています。

 

ツェルト泊の実態とメシ

さて今回の山行、ただのテント泊ではなくツェルト泊を試してみた次第なのです。

 

「ツェルトって何よ?」

 

と言う方もいらっしゃる筈なので、簡単に解説させて頂きますと、ズバリ“簡易テント” の事です。

 

通常のテントは、本体にポールを通して自立させた後、その上からフライシート をかけた二重構造で建てます。

ポールを通す事で安定し、二重にシートをかける事で内部の結露と雨露を防ぐ事ができる仕組みになっているのですね。

 

一方でツェルトは、言ってしまえばタダの一枚布。ポールを通す穴も無ければ、密閉する構造にもなっていません。

 

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このような感じで、だだっ広い布です。

 

しかしこれが、全登山者必携のアイテムになり得る訳です。

 

この一枚布、使い方は様々ですが

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底面が開くタイプのものであれば、木々の間にロープを通してタープの代わりに使うことも出来ますし、そのまま被って雨風をやり過ごす防寒具としても使えます。

 

上記の木々に通すやり方や、トレッキングポール×2や、現地調達した木の枝を支柱にして簡易テントとして使う事もできると言う汎用性の高さがポイント。

 

それ故、テント泊の登山者も、そうでない日帰りの登山者も含めて、お守りとして必ずリュックの中に忍ばせておいて損は無い、登山者必携のアイテムの一つなのです。

 

平地では一度試しに使っては見たものの、山での実践は今回が初めて。

緊急時のシュミレーションとしてはまたとない機会と思い、やってみました。

 

今回使用したツェルトはファイントラックのツェルトⅡロング。

 

ファイントラック(finetrack) FAG0123 ツエルト2ロングOG(オレンジ)

ファイントラック(finetrack) FAG0123 ツエルト2ロングOG(オレンジ)

 

 

 

 

簡易テントとしても使える大きめサイズのツェルトです。

 

設営からやって行きましょう。

 

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先ずやるべきは底面の確保。

テントと違い、一枚布なので、当然底になる部分は密閉されていません。

↑写真のように結べる箇所が等間隔であるので、これらを結んで底面を確保して行きます。

 

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底面を全て結んだら、支柱となるトレッキングポールと自在付きロープ、ツェルトの輪っか部分を結びます。

今回は非常時本番を想定して、ペグは使わず、全て石での固定を行いました。

 

自在付きロープがない場合は、荷造り用のビニール紐でも応用可能です。

どちらかはリュックに常備させておきたいですね。

 

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固定ができたらトレッキングポールを立てます。

此処までが、ツェルト設営の最重要ポイントです。この後の居住性に影響が出て来るので、できるだけ丁寧にやりましょう。

 

その後は、四隅、側面に同じく自在付きロープを結び、石で固定して張力を保ちます。

 

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↑そしてこちらが設立完了をした状態の俯瞰図。

 

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内部の様子です。


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人1人寝る分には問題ない程度のスペースが保たれています。

荷物を外に出してしまえば上下互い違いにして2人はなんとか寝られます。

 

とは言え、上の方の写真を見て頂きますと分かる通り、底面の密閉はされていないため、雨風が多少吹き込んで来る事は妥協しなければなりません。

 

此処まで55分かかりました。やはり、たまにやらないと忘れます。

 

さて!無事にツェルト設営も終わったから始めましょうか!

毎度毎度これが楽しみで山に登っていますので🍺

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双六小屋、なんと樽生のスーパードライを置いてくれているのです。

 

 

うめえ...

 

 

うめえよ...

 

 

今年飲んだビールで1番うめえよ...

 

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あまりの旨さに倒れ臥す穏やかな自画像。

 

やはり時代は洗練されたクリアな味。辛口だったのです。

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双六小屋は缶ビールならヱビスも置いてくれているのです。

サッポラーの私大歓喜です。

もう分かり過ぎていて辛いです。

乾杯がもっと美味しくなりました。

さて、一杯引っ掛けた所で夕飯作りに取り掛かかろうかなと思ったその時、雨が降り出しました。

 

取り敢えず米だけは焚かなければなりません。小雨になった隙を突いて火を付けます。

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雨に打たれながら米が炊き上がるのを待つ自画像

 

米が炊き上がった瞬間に雨が強くなり、慌ててツェルトの中に退避。

 

天気が此処まで崩れるのを想定していなかったのですが、人間はやっていく生き物なので、知恵を絞って考えます。

 

ツェルト内部の底面の紐を1つほどき、無理やり前室を作ることに成功。

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しかしながら、テント内でのガスストーブの使用は、熱でテントに穴が開く可能性と、一酸化炭素中毒の可能性から、やらない方が良いと言うのが前提にあります。

 

その為、風に煽られてもツェルトが炎に触れぬように前面を厳重に固定。火を使う間は目を離さず、換気も充分に行いましょう。

結果、ツェルト内部が雨で濡れまくりました。

 

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今夜の晩ご飯。炊いた白米、フリーズドライの味噌汁、セブンイレブンのキムチ。

本当は此処に麻婆春雨が加わって定食にする予定だったのですが、強雨のために断念。

 

白米の炊き加減はバッチリでした。標高2,600mだろうと、吸水の時間と水加減を多目にしっかりやれば、問題無く炊けます。

 

平地なら、白米を火で炊く時は吸水時間30分、水の量は米の重さ×1.2倍でまず間違いなく美味しく炊けるところを、標高2,600m地点では吸水1時間超〜、水の量は米の重さ×1.3倍で問題無く炊けました。

 

ただ、炊きあがりの旨さはやはり平地に軍配が上がります。1泊、2泊程度ならフリーズドライ米でも全く問題ないので、試してみたい方はやってみて下さい🌾🌾

 

夕食を終え、トイレと歯磨きを済ませたので、さて寝るぞ!

となった段階で、天候はさらに悪化。

今までの強雨から豪雨、嵐の様相を呈して来ました。

 

ツェルトはテントと違って、中にポールが刺さっていません。棒2本と石を使って張力で固定しているだけです。

 

なので、通常のテントよりも遥かに風に揺られます。

 

強風でツェルト崩れたら夜中に貼り直すの面倒だなぁ...

 

でもその時はその時か...

 

現状、これ以上ツェルトに関しては手の施しようがないので、諦めて寝ることに。

 

しかし、風が!雨音が!超絶五月蝿い!

ツェルトが結構な勢いで揺られます。

雨が激しい時間帯を内部から録画してみました📹

安眠には程遠い環境。

 

幸い、雨はそこまで吹き込んでは来ないですが、外気との温度差、内部の湿気から、天井部に溜まった水滴が容赦無くシュラフに落ちて来ます。

 

通常のテントでは、ダブルウォールと言って、テント本体の上にフライシートをかける事から、内部の結露を大幅に減らす事が出来ているのです。

 

普通のテントの偉大さをしみじみと感じますね。

 

夜中に2度、耐えかねて寝袋をタオルで拭きました。ダウン素材は水を含むと保温力が無くなるので、寝袋が濡れるのは割と死活問題です。

 

しかし人間の慣れは恐ろしいもので、そんな状況でも疲れからか、黒塗りの高級車に追突することなく眠りに着きました。

 

明けて翌朝。

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午前4時時点でのテント内の気温は12℃


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ツェルトの内部はご覧の通り濡れています。枕も寝袋もマットも濡れ濡れ。砂も入り込みました。

 

しかしツェルト自体は、あれだけの強風に煽られたにも関わらず、倒れる事はありませんでした。

 

ペグダウン無しのポール2本でも並の嵐程度であれば、耐えられるという事が分かりました。これは貴重なデータです。

 

その後、片道小1時間かけて頂上を往復。

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視界は10〜20mと言ったところ。本気で何も見えません。

 

さっさとテント場まで戻り、朝ご飯を作ります。

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昨日の残りの白飯1合分と


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フリーズドライのシチュー×2、セブンイレブンのサラダチキンを用意


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白飯のクッカーに水を足して

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ガスストーブを点火してフリーズドライのシチューを投下


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沸騰させる間にサラダチキンをほぐし


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シチューに投下。

なんちゃってチキンクリームリゾットの出来上がりです。

 

山のメシなので、これぐらいで充分に旨いです。鶏肉を入れたのでゴージャス感が出ました。サラダチキンのパサパサ感もクリームシチューに混ぜる事で上手く誤魔化せています。


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食後はいつも通りコーヒーを立てて


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井村屋のチョコレート羊羹をお茶請けにデザートを楽しみます。

こう言う事をやっているので私の山行は朝の出足が遅くなりがちです。

 

その後、6時間かけて無事に下山しました。

 

ツェルト使用の所感と総括

いや、今回の山行は思っていた以上にストイックな旅となりました。

ツェルト泊の実態を知る事が出来たのは貴重な経験でしたね。

緊急時に使えるようにするには、やはり平常時に練習をしておく必要があります。

 

ツェルト使用の所感としては、

デメリットとして

  • テントの代わりに使うにはシュラフカバーの使用等、準備が必要
  • ツェルトの中で座って背筋を伸ばせないので疲れる
  • テントと比べて出入りがしづらい
  • 雨風の音がテント以上に五月蝿い

 

と言った所が挙げられます。

特に私の身長(180cm)だと、あぐらかいて座った時にかなり首を曲げないと座れないのですね。

これが、地味にストレス溜まります。

ツェルト内で汁物飲む時に上を向けないので飲み干しづらい事この上ないです。

総じて、テントの完全な代替にはなり得ません。

 

メリットとして

  • 圧倒的に軽い
  • リュックの中で場所を取らない
  • タープ、雪洞の蓋、防寒具、テント代わり等、使用方法が多岐に渡る

 

と言った所が挙げられます。

UL(ウルトラライト)志向の方ならば、テントの代替としての選択肢は充分にあり得ます。

平均的なソロテント1.2kgに対して、ツェルトⅡロングの重さが340g。

圧倒的な軽さ。

 

それ故、小屋泊や日帰りの登山者でもリュックに忍ばせておくのは大いにアリです。

 

道迷いや遭難でビバークする際に、ツェルトがあるのと無いのでは雲泥の差がありますね。

 

例え薄い布一枚だろうと、外界と分ける壁があるのは安心感、そして体温の維持に目覚ましい効果を発揮します。

 

御守り代わりにリュックに忍ばせておいて損はないでしょう。

 

ただし、日頃から練習をしておかないと使おうと思った時に使えません。

 

それを再確認出来ことは今回の山行の大きな収穫でした。

 

山を登る時、或いは災害時の為に1つ常備させておくのは大事な事かもしれません。

 

私自身がUL志向になった時にはテントの代わりとして可能性の1つに入れておこうと思いました。

 

それではまた次の山でお会いしましょう。

 

新穂高温泉双六岳ピストン

技術:★★★☆☆☆☆☆☆☆

体力:★★★★★☆☆☆☆☆

 

(高尾山を

技術:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

体力:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

を基準値として考えて)